組分けの順番につきまして、デフォルト名の「H(ハーマイオニーの後)」で統一させて頂きます。ご了承下さい。

「あと五分でホグワーツに到着します。荷物は別に学校へ届けますので、車内に置いて行ってください」
 ハリー・ポッターとのいざこざからそうかからないうちに、列車にアナウンスが響き渡った。レノーラは相変わらずマルフォイの愚痴に付き合わされていたが、それを聞いてまだ制服に着替えていないことを思い出した。最初から制服姿だったマルフォイは、レノーラの服装に目敏く気づき、クラッブとゴイルを連れて一度コンパートメントを空けてくれた。レノーラは急いでトランクからローブを引っぱり出して、私服を脱いで制服に着替えた。
 新品のローブは少し着心地が悪かった。生地は硬くて肌に馴染まないし、裾が長くて引きずってしまいそうだ。窓ガラスに映った自分の姿は、どう見ても制服に着られていたが、しばらくして戻ってきたマルフォイはレノーラを一目見るなり照れくさそうに「似合ってるよ」と褒めた。
 やがて汽車は速度を落とし、真っ暗なプラットホームに停車した。みんないっせいに出口に殺到したので、しっかり踏ん張っていないと予期せぬところへ押し流されそうだった。
「うわっ、寒い」
 マルフォイに手を引かれながらホームに降りると、ひんやりした冷たい空気に出迎えられた。
「確かに寒いな」マルフォイが顔をしかめてうなずいた。「それより、ここからどうやって城まで行くんだろう」
「さあ。召使いが迎えが来るんじゃないの?」
 レノーラは首を傾げ、適当に答えた。
 正解はすぐに判明した。
 列車を降りて二、三分もした頃、暗闇の向こうから、オレンジ色に輝くランプの光がユラユラしながら近づいてきた。レノーラは一体何だろうと背伸びをしたが、ここからはあまりに遠すぎたのと、クラッブとゴイルの図体がでかすぎたのとで、結局何も見えなかった。
イッチ年生!イッチ年生はこっち!」
 やがて、みんなの頭上に巨大なひげ面がヌッと現れた。
「あの人、見たことあるわ」
 レノーラは髭もじゃの大男を指差して急き込んだ。前にダイアゴン横丁の『フローリアン・フォーテスキュー・アイスクリームパーラー』の前で見かけたことがあった。
「ああ。ハグリッドだ」マルフォイがうめいた。「校庭のほったて小屋に住んでる召使いさ——しょっちゅう酔っ払って、自分のベッドに魔法で火をつけるって聞いたことがある……あんなやつが出迎えにくるなんて…ポッターとはずいぶん仲がいいみたいだけど」
「ようハリー、元気か?」
 誰かに向かって朗らかに話しかけているハグリッドの上半身が、人混みから突き出して見えた。
「さあ、ついてこいよ。もうイッチ年生はいないか?足元に気をつけろ——いいか!イッチ年生はついてこい!」
 ハグリッドに案内され、レノーラたちは真っ暗で狭い小道を延々と歩かされた。道は険しく、気を抜いているとすぐに滑ったり躓いたりした。マルフォイはレノーラの手を引いてエスコートしてくれたが、マルフォイの足取りも間違いなく危なっかしかった。
「大丈夫かい?」
 大きな木の根が階段のように連なっている。マルフォイが気遣わしげにレノーラの腰に手を回した。その途端、マルフォイの高そうな革靴がぬかるんだ地面の上を滑り、バランスが崩れた。
「ええ、大丈夫よ。あなたよりはね」
 レノーラがクスクス笑うと、マルフォイは気に食わなさそうにスッと目を細めた。
「みんな、ホグワーツがまもなく見えるぞ。この角を曲がったらだ」
 遥か前方からハグリッドの太い声が聞こえた。
「おぉーっ!」
 みんな一斉に歓声を上げた。大きな湖のほとりに出ると、向こう岸の高山に、壮大な城がそびえ立っているのが見えた。大小さまざまの尖った塔が黒い夜空を押し上げるように立ち並んでいる。窓がオレンジ色にキラキラ輝くさまが黒い星空に浮かび上がっている。
「すごい!」
 レノーラはマルフォイと顔を見合わせた。二人とも興奮で笑顔を押さえきれなかった。
「四人ずつボートに乗れ!」
 ハグリッドが叫んだ。岸辺に小さな舟がつながれていた。マルフォイは先立って舟に乗り込み、レノーラの手を引いて自分のとなりにいざなった。クラッブとゴイルがその向かいに乗った。二人の体が重すぎて、舟の片側だけが沈みかけた。
「みんな乗ったか?」ハグリッドの大声が聞こえた。「よーし。じゃ、進めぇ!
 ハグリッドが合図すると、何隻もの舟がいっせいに黒い湖面を進み出した。
 みんなが無言だった。レノーラもマルフォイも口を開くことなく、じっと崖の上の城を見上げていた。舟が鏡のような湖面を進んでいけばいくほど、巨大な城がどんどん頭上に迫ってくる。レノーラはなんだか胸がドキドキしてきた——間近で見るホグワーツ城は確かに瀟洒で魅力的だったが、同時に何か圧力のようなものも感じられた。
「頭、下げぇー!」
 先頭の舟が崖下に到着した時、ハグリッドが注意を促していた。どっしりとした蔦のカーテンをくぐると、舟は真っ暗なトンネルの中に進んでいった。きっと城の真下だろうとレノーラは考えた。
 じめじめした地下を抜けると、そこに地味な船着き場があり、生徒を乗せた舟はそこで自然に停止した。
「クラッブ、ゴイル、先に降りろ」
 舟が転覆することを恐れて、マルフォイが二人に命じた。クラッブとゴイルは舟を豪快に揺らしながら、ドスンドスンと岩の道に降りた。その後にマルフォイが続いた。レノーラも急いで舟を降りようとしたが、マルフォイは周囲を見渡すのに気を取られて、手を貸すのを忘れていた。仕方なく、レノーラは揺れる舟に怯えながら、湿った岩の上に飛び移った。
 ハグリッドはみんなが下船した後、舟に忘れ物がないか一隻一隻回って調べた。
「ホイ、おまえさん!これ、お前のヒキガエルかい?」
「トレバー!」
 列車の中で会った丸顔の男の子が飛びついた。男の子は感激に声を詰まらせてハグリッドにお礼を言っていた。
「ぼ、僕、もう見つからないと思ってた……ありがとう、ハグリッド…ありがとう……」
 足元は相変わらず真っ暗だった。生徒たちはハグリッドが持つランプの明かりを頼りに、ゴツゴツした岩の路を歩き、湿った草むらを抜け、石段を登って、巨大な樫の木の扉の前に集まった。ハグリッドがちょっとした岩のような拳で扉を三回叩くと、扉がパッと開き、黒髪の魔女が現れた。エメラルド色のローブを着た、背の高い、厳格そうな魔女だった。
「マクゴナガル教授、イッチ年生の皆さんです」
「ご苦労様、ハグリッド。ここからは私が引き受けましょう」
 マクゴナガル先生は杖を振り、扉を大きく開いた。
 玄関ホールはとても広かった。ハーグリーヴスの大屋敷にもこんなに広い場所はなかっただろう。普通の大きさの家なら、庭までまるごと一軒すっぽり入りそうだ。天井は突き抜けるように高く、松明が石壁でパチパチと炎を上げていた。
 マクゴナガル先生に先導されてホールを横切ると、右の方から何百人分ものざわめきが聞こえた。しかし、マクゴナガル先生は一年生を脇にあるちっぽけな空き部屋に案内した。一年生全員が入るにはとても窮屈で、レノーラは危うくクラッブとゴイルに押しつぶされそうになった。
「ホグワーツ入学おめでとう」
 マクゴナガル先生がきびきびと挨拶した。
「まもなく新入生の歓迎会が始まります。ですがその前に、皆さんが入る寮を決めなくてはなりません。寮の組分けはとても大切な儀式です。ホグワーツにいる間、皆さんにとって寮生が学校での家族のような存在になります。寮は四つあります。グリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、スリザリン——それぞれに輝かしい歴史があり、偉大な魔女や魔法使いが卒業しました。ホグワーツにいる間、皆さんのよい行いは、自分の属する寮の得点となり、反対に規律に反した行為は寮の減点となります。どの寮に入るにしても、皆さん一人一人が寮にとって誇りとなるよう望みます」
 レノーラは緊張して全身が硬くなった。もしハッフルパフになったらどうしよう——何としてでもスリザリンに入らなければ、パパとママをがっかりさせてしまう……。
「これから全校列席の前で組分けの儀式を執り行います。待っている間、できるだけ身なりを整えておきなさい」
 マクゴナガル先生は一瞬、『ヒキガエル探しの子』のマントの結び目のずれと、ウィーズリーの鼻の頭の汚れに目をやった。レノーラは急に、舟に座った時についてしまったマントのしわが気になった。
 先生が出て行くと、部屋の中にはソワソワした生徒たちの話し声が広がった。みんなレノーラと同じように不安げだった。『ヒキガエル探しの子』は胃袋の辺りをさすっていたし、ハリー・ポッターはマルフォイと同じくらい蒼白だった。フワフワの栗毛をした女の子は、どの呪文が試されるのだろうと、休暇中に暗記した呪文をブツブツと暗唱していた。
まさか、テストをするんじゃないわよね」
 レノーラは不安になってマルフォイを見た。夏休み中、教科書を開いたことなんて一度もない。
「さあね」マルフォイは軽い調子で肩をすくめた。「そんなに緊張しなくても、君はスリザリンだよ。僕たち、きっとみんな一緒だろうよ——ああ、クラッブとゴイルもさ!」
 レノーラ以上に表情がこわばっている二人を見て、マルフォイが言い足した。その後で、マルフォイは疑わしげな目でゴイルを睨んだ。
「お前は唯一怪しいな。せいぜい気をつけろよ。スリザリンじゃなかったら口をきいてやらないからな」
 マルフォイの自信はいったいどこからくるのか、レノーラには分かりかねた。純血の一族が百パーセント全員スリザリンに組分けされるのなら、レノーラだってこれほど緊張していなかっただろう。しかし、過去にはスリザリン以外の寮に入れられた人もいる。マルフォイ家の親戚、ブラック家にはグリフィンドールを出た者もいるが、結果ろくな人間にならなかった。何しろ、十一歳から十八歳までの一番大事な時期を過ごす場所だ。どの寮に入るかで、今後に強い影響を及ぼすはずだ。
 今後云々以前に、レノーラは周囲の目が恐ろしくて仕方なかった。出発前、「ハッフルパフだったらどうしよう」と切に悩みを打ち明けたとき、父親は何と言った?「冗談を言うな」と笑い飛ばした。つまり、レノーラがハッフルパフに入るなど、父親にとってはありえないことなのだ——でも、もしそれが実現してしまったら……?想像するのも恐ろしい。レノーラはぶるぶると首を振った。
「ウワッ」
 真後ろに立っていたクラッブが急に飛び上がったので、レノーラはどんと突き飛ばされ、前に立っていた知らない男の子の背中に顔から突っ込んでしまった。レノーラ自身は何とか踏み止まったが、小さな男の子はレノーラの重みに堪えきれず、盛大につんのめって床に突っ伏した。
「まあ、ごめんなさい!」
 レノーラは慌てて謝ったが、男の子は聞いてもいなかった。
「いったい……?」
 誰かが呟いた。男の子の視線はどうやらレノーラの背後に固定されている。レノーラは嫌な予感がした。恐る恐る振り返ると——出た!思わず息を呑み、そのへんに突っ立っていた誰かに飛びついた。みんなが恐怖で青ざめている中、飛びつかれたマルフォイだけは妙に血色が良かった。
 真珠のように白く、透き通ったゴーストが、後ろの壁からブワッと現れたのだ。ざっと見て二十人はいる。
「もう許して忘れなされ。彼にはもう一度チャンスを与えましょうぞ」
 ゴーストたちは難しい顔をして互いに話しながら、スーッと部屋を横切っていった。
「修道士さん。ピーブズには、すでに十分すぎるくらいのチャンスをやったではないか。我々の面汚しです。しかも奴は本当のゴーストじゃない——おや」
 ひだのある襟のついた服を着た、タイツを履いたゴーストが、はじめて一年生に気づいて声をかけた。
「君達、ここで何してるんだい」
「新入生じゃな。これから『組分け』されるところだ。違うか?」
 太った修道士がほほ笑みかけた。レノーラの傍に立っていた何人かが黙ってうなずいた。
「ハッフルパフで会えるといいな。わしはそこの卒業生じゃからの」
 修道士が言った。それを聞いた時、冷えきったレノーラの体に何かあたたかいものが流れ込んできた。もしよかったら、ハッフルパフに来てくれると嬉しいな——そうだ。ハッフルパフにはセドリックがいる。もしスリザリンに選ばれなくて、マルフォイや両親に見放されても、ハッフルパフにはセドリックがいるじゃないか…。
「さあ、行きますよ」
 扉が再び開き、マクゴナガル先生の厳しい声が飛んできた。ゴーストたちがするりと壁を抜けて出て行った。
「一列に並びなって、ついてきてください」
 レノーラはマルフォイの後ろに並び、その後ろにクラッブ、ゴイルと続いた。一年生は先生に続いて玄関ホールに戻り、そこから二重扉を通って、明るい大広間に入った。
「うわぁ…」
 セドリックのことを思い出したら気分が軽くなり、大広間のすばらしい光景を素直に楽しむことができた。天井には魔法がかかっていて、本物そっくりの夜空に点々と星が輝いている。その下に、何千というろうそくが浮かび、四つの細長いテーブルを照らし出していた。テーブルにはキラキラする黄金のお皿とゴブレットが規則正しく並べられ、着席していた上級生たちは、一年生が入ってくると皿から目を離し、いっせいに注目した。上座にはもう一つテーブルがあり、アルバス・ダンブルドア校長先生をはじめとした幾人もの教師たちが座っていた。
 マクゴナガル先生に引率されて、一年生は上座のテーブルの前で横一列に並び、上級生に顔を向けた。何百もの目という目が、一組残らず一年生に注がれている。その中に、ライリーや他の友達と一緒に座るセドリックの姿を見つけてしまった。セドリックにほほ笑まれ、レノーラはドキッとして俯いた。
 一年生の前に、マクゴナガル先生が四本脚のスツールを置いた。その上に、古ぼけた三角帽子が置かれた。継ぎはぎだらけの色褪せた帽子は、アステリアが見たら悲鳴を上げて卒倒してしまいそうなほど汚らしかった。
「あれって……」
 マルフォイが何か言いかけたが、すぐに口をつぐんだ。
 大広間は、これだけ人が集まっているというのに、水を打ったように静かだった。この沈黙の中で、オンボロ帽子は急にピクピク動き出した。そして、つばのへりの破れ目がパックリと開かれた。まるで人の口のようだった。

♪私はきれいじゃないけれど
人は見かけによらぬもの
私をしのぐ賢い帽子
あるなら私は身を引こう

 どこからともなく歌が聞こえてきた。一体どこで誰が歌っているのだろうとキョロキョロしたが、その音源に辿り着いたレノーラはぎょっとした。歌っているのは、なんとあの三角帽子だったのだ。

山高帽子は真っ黒で
シルクハットはすらりと高い
それからホグワーツの組分け帽子
私は彼らの上をいく
君の頭に隠れたものを
組分け帽子はお見通し
かぶれば君に教えよう
君が行くべき寮の名を

グリフィンドールに行くならば
勇気ある者こそふさわしい
勇猛果敢な騎士道で
他とは違うグリフィンドール

ハッフルパフに行くならば
君は正しく忠実で
忍耐強く真実で
苦労を苦労と思わない

古き賢きレイブンクロー
君に意欲があるならば
機知と学びの友人を
ここで必ず得るであろう

スリザリンではもしかして
君は真の友を得る
どんな手段を使っても
目的遂げる狡猾さ

かぶってごらん!恐怖を捨てて!
興奮せずに お任せを
君を私の手にゆだね(私は手なんかないけれど)
だって私は考える帽子!

 上級生たちが拍手した。帽子は四つのテーブルに順にお辞儀をして、再びただのオンボロ帽子に戻った。なんだ——レノーラは安堵した——ただ座って、帽子をかぶればいいのか。テストでも面談でもなんでもない。帽子をかぶればおしまいだ。なんて簡単なんだ。
「嘘でしょ。嫌だ。あれをかぶるの?」
 マルフォイの向こう隣に立っていた、背の高いブルネットの女の子が、ゾッとした声を上げた。
「あたし絶対嫌よ!せっかく一時間もかけてセットした髪が台無しになっちゃう!」
「いいですか?」
 マクゴナガル先生が咳払いをしてみんなを黙らせた。
「ABC順に名前を呼ばれたら、帽子をかぶって椅子に座り、『組分け』を受けてください」
 そして、最初の一人目が呼ばれた。「アボット・ハンナ!」
 金髪のお下げの女の子が転がるように前へ出た。帽子は十一歳の子供がかぶるには少々大きすぎた。ハンナがかぶると顔のほとんどが隠れて見えなくなってしまった。ハンナが椅子に腰かけると、それから間もなくして、
ハッフルパフ!
 帽子が高らかに叫んだ。すると、右側のテーブルから拍手喝采が起こった。ハンナは帽子を椅子に戻し、うれしそうにハッフルパフのテーブルに着いた。
「ブライズデル・ラリー!」
 レノーラの顔が引きつった。列車の中でスカートを覗こうとした、体格のいい男の子だ。ブライズデルが帽子をかぶると、帽子はとたんに声を上げた。
スリザリン!
 マルフォイがうめいた。ハッフルパフの隣のテーブルから歓声が上がった。レノーラはテーブルに座る上級生の面子を見て、胃袋が沈むような感覚がした。みんな、クラッブとゴイルやブライズデルの親戚か何かじゃないかと思えるほど、似たような顔つきをしていた。入学式だというのに、中には我関せずといった様子で本に読みふけっている生徒もいる。レノーラは恐ろしくなってマルフォイを見上げたが、マルフォイはすっかり帽子の方に気をとられていた。
「ボーンズ・スーザン!」
 マクゴナガル先生が次の名前を呼んだ。
ハッフルパフ!
 スーザンはホッとしたように胸を撫で下ろすと、小走りでハンナの隣に座った。
「ブート・テリー!」
 今度は「レイブンクロー!」だった。テリーが左端から二番目のテーブルに向かうと、何人かが立ち上がって握手で迎えた。レノーラは何となくレイブンクローとは気が合いそうにないなと思った。
 次の「ブロックルハースト・マンディ」も「レイブンクロー!」になった。「ブラウン・ラベンダー」が初めて「グリフィンドール!」に選ばれ、一番左端のテーブルから特大の歓声と拍手が起こった。赤毛の双子はヒューッと口笛を吹いて喜んでいた——ホグワーツ特急が出る前に、学校のトイレを爆破すると言っていた連中だ。レノーラは絶対に彼らとはお近づきになりたくなかった。
「チェイス・コーディリア!」
 帽子を嫌がっていたブルネットの美女が進み出た。背筋をぴんとはっていて、まるで頭のてっぺんから糸でつるされているみたいだった。コーディリアは最後まで帽子をかぶるのを渋っていたが、マクゴナガル先生に怒鳴りつけられ、しかたなく、しかしかなり恐る恐る、汚い帽子を頭に乗せた。
スリザリン!
 だろうなとレノーラは思っていた。コーディリアはパッと帽子をスツールに放り投げた。
「コーディリアって、チェイス家の子よね?」
 レノーラがマルフォイにささやいた。マルフォイはレノーラを見もせずに頷いた。
 続いて「クラッブ・ビンセント!」が「スリザリン!」、「フィンチ-フレッチリー・ジャスティン!」は「ハッフルパフ!」になった。黄土色の髪の毛をした「フィネガン・シェーマス!」は、一分間も帽子をかぶったまま待ちぼうけだったが、結局「グリフィンドール!」に組分けされた。「ゴイル・グレゴリー」がスリザリンに決まった時は、マルフォイは少しホッとしたような顔をした(ゴイルは頭が悪かったので、マルフォイは彼がひょっとしたらハッフルパフになるかもしれないと懸念していたのだ)。
「グレンジャー・ハーマイオニー!」
 儀式の前に呪文を復唱していた女の子だった。ハーマイオニーは待ちきれないというように走り出し、グイッと帽子をかぶった。
グリフィンドール!」と帽子が叫んだ。
 そして……。
「ハーグリーヴス・レノーラ!」
 来た。レノーラは一瞬ドキッとしたが、さっきまでの緊張はもうどこかに吹き飛んでいた。金髪をなでつけて、いそいそと前に進み出る。帽子をかぶって椅子に座ると、視界が真っ暗になった。
「フーム」頭の中に、低い声が響いてきた。
「なるほど。ハーグリーヴス家の子かね?あそこは代々スリザリンだったが…」
 じゃあ、スリザリンにして——レノーラは手を組んで必死に祈った。
「フム。父親・母親と同じ道を選ぶのかね?確かに君はスリザリンに向いている部分もある。しかし、私は君に可能性を見出すことができる——その可能性を今すぐに開くことはできない。ひょっとしたら永遠に埋もれたままになるかもしれない。それでも、もし、その道を歩むことになったとしたら、君は果たしてスリザリンにふさわしいと言えようか」
 何でもいい。あるかないか曖昧な可能性など、レノーラの知ったことじゃない。さっさとスリザリンと叫んでちょうだい。スリザリンのテーブルで、クラッブとゴイルが待っているのよ……。
「君には、狡猾さというよりもむしろ慈しみの心がある。少々わがままではあるが、良く言えば意志が強い。私が君に望む未来は、賭けようと思える道は……そう——グリフィンドール!
 グリフィンドールのテーブルから歓声が上がった。レノーラは動けなかった。頭のてっぺんから足の爪先まで、まるで金縛りにあったかのように硬く凍りついていた。後ろからマクゴナガル先生が近寄ってきて、レノーラの頭から帽子を取り上げた。再び明るくなったレノーラの目に映ったのは、早く席に向かうように言いつけてくるマクゴナガル先生でも、他の生徒のときと同じように拍手でレノーラを待つ左端のテーブルでも、ましてや口笛を吹いて椅子の上で飛び跳ねている双子のウィーズリーでもなく、恐ろしく冷えきった目でレノーラを睨みつけている、ドラコ・マルフォイだった。