その報せは瞬く間に国中へ広がり、独房に閉じ込められた少女の耳にも届いた。

 —— 前国王ファーガスに有罪判決、絞首刑に処す。

 イーヴィには初め、その言葉の意味を理解することができなかった。ようやく脳みそが動き出した頃、イーヴィは絶望に吼えた。全てが理不尽な冤罪だと、何もかもが間違っていると確信していたのに、とうとう最後まで正されなかった。イーヴィの真っ黒い目に、終わりが見えた。ファーガスは処刑されてしまう。きっとイーヴィもただでは済まされないだろう。
「……おうさま…!!
 ガラガラに枯れた声が、石畳の上に落ちて消えた。握り締めた拳からポタポタと血が滴った。
 その時だった。
 ——ギィ…。
 重たい音を上げながら、独房の鉄扉がぶっきらぼうに開いた。扉の隙間から目の眩むような白が差し込み、石畳を細長く照らし出した。イーヴィはのそりと顔を上げ、疑わしげに光を見つめた。
「出ろ。女傑」
 看守が言った。右手に鍵束をぶら下げている。
「貴様の無実が証明された。釈放だ」
***
 そろそろ通達がいったところだろう。レイダーは玉座に座り、金の時計を眺めていた。小さく溜め息を洩らすと、脇から給仕がワイングラスを差し出してきた。礼も言わずに受け取って、唇をつける。酸味が強くてちっともうまくなかった。
「よろしかったのですか?レイダー様」
 任命したばかりの新しい執事がお節介に話しかけてきた。
「女傑を釈放するなんて……ファーガスと一緒に首を吊るものと思っていましたが…」
「……問題なかろう」
 レイダーは短く答え、口元を手の甲で乱暴に拭った。
「もともとあの女傑人はこちら側に置く予定だった。当初の予定に戻っただけだ。一つ気に入らぬことがあるとすれば…」
 一度言葉を切り、レイダーは眉根に険しい皺を寄せた。
「あやつの『最後の頼み』とやらが、それだったということだ」
 —— 最期じゃ。ひとつ、頼まれてはくれぬか…?
 頭の中に弱々しくすがりつく老人の姿が浮かんだ。忌々しい。グラスを持つ手にぎりぎりと力が入った。
 —— イーヴィだけは、生かしてやってくれ…。
「あのような者に、なぜあそこまで肩入れする…?自分の命など二の次にして……」
 —— あの子に居場所を与えてやってほしいんじゃ。
 パーン!
 突然のけたたましい音に、使用人達は驚いて飛び上がった。レイダーの足元で薄いワイングラスが砕け散っている。
「レイダー様…!なんてことを……お怪我は——」
「ない。さっさと片付けろ」
 レイダーが低い声で唸ると、使用人は「はい!ただいま」と慌てて箒と雑巾を取りに走って行った。
 真紅の布を張った背もたれに体を預ける。座り心地が悪くて、何度も身じろぎした。玉座から見渡す景色は、思っていたよりつまらなかった。広間の天井はこんなに低かっただろうか。外はよく晴れているはずなのに、窓から差し込む光は物足りず、薄暗くて陰気臭い。赤い絨毯は色褪せ、黄金の繊細な装飾は埃に覆われて輝きを失っているように見えた。
***
 山道を越え、辿り着いた先は、イーヴィの記憶にあるよりも酷い光景だった。イーヴィが住居として使っていた山小屋は数日前レイダー達に荒らされた時のままだった。いや、あの時よりもひどくなっている。破れた窓から雨と泥が流れ込み、壁や床が目も当てられない色に塗りつぶされていた。入口には潰れたケーキボックスが転がっており、腐ったケーキを餌におぞましい姿をした害虫が集まってきている。蝶番ごと外れて開きっ放しになった扉から枯れ葉が入り込み、汚い室内をカサカサ言いながらうろついている。
「…あ」
 入口のすぐそばに、『スタリーデール』の絵本が落ちていた。幸い、壊れた本棚の陰になっていたおかげで、それほどのダメージは受けていなかった。汚れを軽く払い、表紙を指でそっと撫でる。湿気を吸って少しふやけてしまっていた。
 —— 私、スタリーデールをきれいにしたい!
 暢気にあんな事を抜かしていたちょっと前の自分が、今は羨ましく思えた。
「……掃除…しなきゃ…」
 イーヴィはロボットのように呟くと、壁に立てかけてあったデッキブラシを掴み、腐ったケーキボックスをまたいで部屋に入った。
 まず軋む床板にデッキブラシを走らせ、枯れ葉をかき集めた。渇いた泥はしつこくこびりついてしまってなかなか落ちそうにない。裏の川から水を汲んできて、壁と床にぶちまけ、一心不乱にこすった。それでも足りないので、また川に水を汲みに行き、床を濡らしてブラシで磨いた。
 何回同じことを繰り返し、それに何時間かけたのかは分からない。気づくと、小屋の外はすっかり日が落ちて暗かった。イーヴィは綺麗に片付いた部屋の真ん中に、ぽつんと三角に座っていた。
 何もかも全部焼かれてしまった。家具も着替えもなかったが、今さら新しく調達してくる気にはなれなかった。ガラスのない窓枠から、夜空に冷やされた外気が直接吹き込んでくる。
 —— どうしよう。
 イーヴィは傷みきった床をぼんやりと眺めた。どうしたらいいんだろう。自分だけ助かってしまった。こんなの何の意味もない。ファーガスは死んでしまうのに——。ファーガスの存在しない世界なんて想像もつかないし、したくもない。そんな場所に一人生き残って、どうしろというのだ……。
 食べ物もろくに口にせず、小屋の真ん中にちんまりとしゃがみ込んだまま何日かが過ぎた。イーヴィはぼろぼろの寝袋の上に横たわり、じっと天井の木目を目でなぞり続けていた。体は痩せ細り、どんどん弱っていったが、イーヴィは気にもならなかった。このまま溶けてなくなってしまえばいい。どうせファーガスはいなくなってしまうんだ……。投げやりな考えばかりが頭の中をぐるぐるとめぐり続けた。
 そんな時、壊れた山小屋に思わぬ来客があった。
「おい!バカイーヴィ!お前まだこんなところにいたのかよ!」
 ジムだ。そういえばこんな奴がいたな——イーヴィは久しぶりに存在を思い出して舌打ちした。かん高い声が以前よりも煩わしく感じた。
「ここで腐ってる場合かよ!今日が何の日か分かってんのか!?
「放っといて…」
 イーヴィはごろんと寝返りを打ち、ジムに背中を向けた。しかし、ジムは引き下がらなかった。
「ほら、立てって!」ジムはイーヴィの腕を掴んで無理やり引っぱった。「こんなとこで寝てる場合じゃねェぞ!!
「放して…」
「うるせェ!! いいから立て!さっさとしねェと始まっちまうぞ!——公開処刑!!
 イーヴィはだらりと横たわったまま、些細な反応も返さなかった。
「おいいったいどうしちまったんだよ!いつものお前らしくねェじゃねェか。ずーっとここでうじうじしてる気か?」
「………」
「いいのかよ!! ファーガスが殺されちまうんだぞ!!?
「聞きたくない」
 イーヴィは悪夢にうなされるように身をよじり、ジムに背を向けた。頭上から焦れったそうに舌打ちしたのが聞こえた。
「おい、シカトしてんじゃねェよ!」
 ジムが覆い被さるようにして肩を揺さぶってくる。イーヴィは肩を回してそれを振り払った。
「おいコラ——」
 ジムはイーヴィの正面にずかずかと回り込んでしゃがみ、ぐいっと胸倉を掴んだ。
「……おれが今どう思ってるか教えてやろうか」
 ジムが挑発的に言った。
「やっぱりなって思ってるよ!こうなることは目に見えてた!お前はいつも国王を庇ってたけど…!! おれやみんなはアイツのことがずっと憎かった!! 恨んでたんだ!!! あんな能無しを国王だなんて認めたくなかったし…!! 早く死なねェかなって……ずっとそう思ってたよ!!!
 イーヴィは何も言い返さなかった。挑むように睨みつけてくるジムを、無感情な目でぼうっと見つめ返すのみだった。
「情けねェ面しやがって…」ジムが苛立たしげに唸った。「てめェいつもみたいに怒れよ!」
「………」
「いつもみたいに振り払えよ!『気安く触るな』って怒鳴れよ!ブン殴れよ!——お前らしくねェぞ!! 国王がやべェんだぞ!!? 何とかしろよ!! いつもみたいに!!!
「……私に…どうしろって言うのよ……」
 イーヴィは静かに言い返した。
「私だって王さま助けたいよ……助かって欲しいって、思ったよ……だけどこれは、私が行ってどうにかなるような…そんな単純な問題じゃないでしょ……もうどうにもならないのよ……」
 自分のものとは思えないような弱々しい声だった。
「私は釈放されたの……私はもう…事件とは無関係なんだって……」
 ジムにこんなことを言ってどうにかなるわけもないのに、こんな情けないセリフなんて聞かせたくないのに、言葉が止まらない。唇の震えが止まらない。
私じゃ王さまを助けられない!! 私にはもう…!!!!! できることは何もない!!!
 はっきりと言葉にしたとたん、深い悲しみが荒波のように襲ってきた。ジムはイーヴィの胸倉を掴んだまま、ショックを受けたように凍りついた。
「……王さまが死ぬところなんて見たくない」
 ジムの手から襟を奪い返すと、イーヴィは続けて言った。
「帰って」
 二人の間に沈黙が降りた。言い返す言葉がなくなったのならさっさと出て行ってもらいたかったが、ジムはきまり悪そうな顔で相変わらずそこに突っ立っていた。無神経に焚き付けようとした自分を恥じているようだった。
「べ、別に…」
 ややあって、ジムがぽつりと言葉を紡いだ。
「別におれは……『助けに行け』って言ってるわけじゃ…」
「………」
「ただ、このままじゃお前が後悔するんじゃないかって……そう思っただけなんだ。おれは国王…、ファーガスのことは嫌いだけど…さ、お前のことはそうでもないからよ……」
 そう言ったきり、また何も言わなくなってしまった。だが、一向に出て行く気配がない。だからといって話を続けるようでもなく、ただムスッと仏頂面のまま睨むようにイーヴィを見下ろしている。イーヴィは一度目を逸らしたが、突き刺さるほどのただならぬ視線を感じてまたジムを見上げた。怒っているのかと思ったが、何かを見定めているようにも見えた。
「……お前の釈放が決まった時、おれの孤児院にある手紙が届いた。本当は全部終わったら渡すよう言われてたんだが…」
 そう言って、ジムは鞄の中から封筒を取り出した。
「国王からだ。読め!」
 胸元に強引に押しつけられ、イーヴィは受け取るしかなくなった。
 封筒は一度封を開けられていた。きっとジムが勝手に目を通したのだろう。中には少しよれた羊皮紙が一枚入っていた。手紙を開くと、弱々しい細かな字が狭い紙面いっぱいに敷きつめられていた。

イーヴィ

 最後に君の顔を見てから、ゆうに1年以上経つ。元気にしているじゃろうか?カゼは引いとらんか?
 君にかける最後の言葉がこんな形になってしまったことを、どうか許してもらいたい。
 わしはいずれ死を迎えることになるじゃろう。心残りは、この国の行く末、そして君の成長を見届けてやれぬということじゃ。君はきっと美しく、聡明で、心優しい女性になることじゃろう。読み書きに弱いと不便じゃろうから、これからは毎日勉強しなさい。掃除や片付けは程々に。根を詰めてはいかん。体にはくれぐれも気をつけるのじゃぞ。
 それから——。

 イーヴィは途中で読むのをやめた。がっかりした。この手紙にはイーヴィの慰めになるようなことなんて何一つ書いていない。ああしろこうしろと命令ばかりがずらりと連なっていて、むしろ余計に気が滅入った。どうしてジムがこんなものをよこしてきたのか理解できなかった。
「……何、よ…これ——」言葉は大きく震えていた。「——ただの……遺言じゃない…」
「裏、見ろよバカ」
 ジムがぶっきらぼうに言った。イーヴィは「え…?」と間抜けに声を洩らした。言われた通りに手紙を裏返してみると、「追伸」に続けて、小さな、今にも消え入りそうな文字が短く綴られていた。イーヴィはその文字を声に出して読んだ。

 最後に、ひとつ、わがままが許されるのなら——

「『お前の』——っ…!!
 イーヴィは声を詰まらせた。手に変に力が入り、手紙がくしゃりと音を立てた。
「……王…さま…!!
 頭の中がごちゃごちゃだった。複雑な気持ちが数えきれないほどたくさん入り混じって、胸の中で渦を巻いていた。何ができるのか、何をするべきなのか、全く分からなかった。だが、唯一はっきりしている感情があった。それは体の奥底で炎を上げながら、表に出たそうにうずうずしていた。
 イーヴィは顔を上げた。ジムと目が合った。
「……あ……私…、」
「——広場だ」ジムが口早に言った。「急げ!」
 イーヴィは走り出した。手紙を右手に握り締め、ジムの横を抜けて、扉を乱暴に蹴り開け、蝶番が外れるのもお構いなしに小屋の外へ飛び出した。
 ジムはそれを追うことはしなかった。振り向きもせず、遠ざかっていく靴音を背中で聞きながら、静かに目を閉ざした。

 獣道を横切り、小川を飛び越え、森を抜け、山を下りて、人里へ出た。町はほとんどもぬけの殻だった。人のいない商店街はいつも以上に長く感じた。イーヴィは全速力で走った。息は上がり、足は根元からちぎれそうだったが、無視して走り続けた。風が通りすがりにイーヴィの髪の毛を乱していく。ワンピースにじわりと汗が滲み始めた。
***
 同時刻
 フィリンシア城下広場

 ファーガスは静かに顔を上げた。そこはもともと島で最も崇高な城を望む静粛な場であった。それがいまや見物人で溢れ返り、ぴんころ石の石畳は完全に埋め尽くされている。拳を上げ、罵詈雑言の数々を浴びせかける彼らの向こうに、物々しい処刑台が見えた。これから首を縛る者の姿をよく見せつけるために、高々とそびえ立っている。
 —— あれが…。
 ファーガスは静かに息をついた。喉の奥がカラカラだった。
 新軍事司令官が手を上げた。
 ファーガスの前と後ろに、新国王軍の兵士達が槍を携えて並んだ。人々はその列を見て一斉に歓喜の声を上げた。
「………」
 ファーガスは鉛のように重い足を上げて、まず一歩踏み出した。
***
 急げ。走れ。私はもっと足が速かったはずだ。イーヴィは唇を破れて血が出るほど強く噛みしめた。握ったままの手紙が風にもまれてぐしゃぐしゃになった。
 イーヴィは体を傾けるようにして方向転換し、商店街を途中で横に抜けて、暗闇を落とす林の中へ突入した。城下広場へはこの道を通る方が近い。道が悪くて、地面がぬかるんでいたが、イーヴィは足を止めなかった。靴が泥水を跳ね上げても、突き出した枝で腕を切っても、脇目も振らずに走り続けた。
***
 人生最後の行進はなんともひどいものだった。ファーガスは兵士の先導で観衆の前をのろのろと横切り、たっぷり時間をかけて罵声を浴びせかけられた。
 やがて行進は役人達の列に差しかかった。びしっと揃った二列の間を歩かされ、ファーガスは顔を上げて歩くことが苦痛に感じられた。勝ち誇ったように笑う者もいれば、氷のように冷たい目で睨む者、罪悪感に苛まれてじっと俯いている者もいた。見知った顔の前まで来た時、ファーガスは思わず足を止めていた。
 スタンリーと目が合った。ファーガスは咄嗟に下唇を噛んだ。その瞬間、これまで何事にも揺るがなかったスタンリーの厳格な顔が、涙に崩れた。
敬礼!
 スタンリーの呼びかけに応じた二十四名。これまで長年に渡ってファーガスに仕えてきた役人、近衛兵、使用人だった。嗚咽を堪えて、悲痛にひどく歪んだ顔をして、しかしまっすぐと正した姿勢で敬礼した。罪人に敬意を表するということの意味を、彼らが知らなかったはずもない。強い覚悟の上だった。ファーガスは兵士に背を押され、躓きそうになりながらその横を通り過ぎた。そして、ゆっくりと目を伏せた。
***
 最後のカーブを曲がり、イーヴィは城下広場に飛び込んだ。見渡す限り人、人、人……。うんざりするほど夥しい数の大人達が、人垣の向こう側にむかって狂ったように怒鳴り散らしている。そして——あぁ、なんてことだ。イーヴィは息を呑んだ。ファーガスがもう——処刑台にいる…!
王さま!!
 イーヴィは群衆を押しのけ、そこに生じた僅かな隙間に体をねじ込んだ。腕を伸ばして前へ前へと泳ぐように進むが……人垣が厚すぎる。加えてこの騒音だ。もうすぐそこに姿が見えているというのに、声が届かない。
王さま…!…!!!
 後ろから横からもみくちゃにされて危うく転びそうになったが、前の男の背中に激突する形でなんとか免れた。うざったそうに振り返った男を全力で横に押しやり、空いた隙間に突進する。あちこちから抗議の声が上がっても、イーヴィはお構いなしに突っ込んでいった。
王さまァ!!
 処刑台がずいぶん大きく見えてきた。それでも声は届かない。
 執行人が処刑台の階段を上り、ファーガスに近づいていくのが見えた。イーヴィは息を呑んだ。ダメ!待って!——全身がカッと熱くなった。

ッ、お父さん!

 振り絞った金切り声は、民衆の野次を突き抜けて、ファーガスの耳にはっきりと届いた。
***
 ファーガスは弾かれたように顔を上げた。埃のように濁った目は、最後の最後に希望の光を帯び、広場に群がる人々の間を素早い動きで探った。
 そして、見つけた。その瞬間、ファーガスの耳から一切の音が消えた。黒い、純粋な、黒い影。最後に見た時よりも少し大人になった。黒曜石のような双眸が、ファーガスと目が合った瞬間、大きく見開かれた。イーヴィは大人達の背中に押し戻されそうになりながら、ファーガスに向かって必死に何かを叫んだ。

 最後に、ひとつ、

 ファーガスの背後に執行人が立った。

 わがままが許されるのなら——

 イーヴィは叫ぶことをやめた。人混みに押し流されないように仁王立ちになって踏ん張りながら、まっすぐとファーガスを見つめた。
 執行人が黒い布袋を広げる音がした。
 ファーガスの右目から一筋の涙が零れ落ちた。
 イーヴィの強張った口元が緩められた。ささやかで、ぎこちなく、へたくそだった。それでもそれは、確かにファーガスが最後に望んでいた——、

 お前の“笑顔”をまた見たい。

 ばさり、再び音がした。それを最後に、世界が途切れた。ファーガスの視界は黒に染まった。

——!!!

 頭に布を被され、首に縄を巻かれたファーガスの体が、処刑台から落とされた。ファーガスは空中でびくびくっと大きく痙攣した後、二度と動かなくなった。
***
 歓声を上げる人々。茫然と崩れ落ちるイーヴィ。新しい時代の始まりを告げる鐘が島中に響き渡る。ジムは溢れる激情に任せて壁を殴った。罪人に敬礼した二十四名は、抵抗もせず、新国王軍の手で全員捕らえられた。
 レイダーは城の中だった。窓を背にしてずるずると崩れ落ち、祈るように組んだ両手を額に当てて震える息を洩らした。