ナミとウソップはとんでもない顔をしていた。目玉は飛び出し、顎は外れ、真っ青な顔で総毛立っている。物語が終わって平静を保っていられたのは、冒頭以降ほとんど聞いていなかったルフィを除けば、ゾロとサンジだけだった。語り手のスタンリーでさえ、その名を口にしたことで悪寒を感じているようである。
ダ…ダグラー…!!
毒蜘蛛の…!!?
「おー。誰だそいつ?」
 ルフィだけは暢気なものである。鼻の穴に小指を突っ込んでほじくり回している。
「海賊だ。それもかなり悪名高い」
 ゾロが答えた。賞金稼ぎを生業としていた過去があるためか、名の知れた海賊ならば多少の知識はあるようだ。
「懸賞額は確か…2900万ベリーだったか…」
「なんだ。おれより低いじゃん」
 スタンリーがルフィの言葉を聞いて目を剥いた。
「小僧……ゴフッ……お前、賞金首なのか…!!?
「おう今朝からな」
「あのね、ルフィ、」全く状況を把握できていないルフィに、ナミは自分のこめかみをぐりぐりしながら溜め息をついた。「懸賞金の高い低いは関係ないのよ“毒蜘蛛のダグラー”っていったらとんでもない悪党なんだから
「そそそそうだぞルフィ」とウソップ。「こいつは傘下に10の海賊団を従えてる大物だぞ…“東の海”最悪の海賊とも言われてんだヘタにケンカなんか売ったら、おれ達みたいな弱小、跡形もなく消されちまうぞ!!!
「……で…」
 サンジが話を戻そうと声を上げた。タバコが恋しいのか、物足りなそうに顎髭をいじっている。
「そのクソ海賊に、イーヴィちゃんは囚われの身ってわけか…」
「いや……ガフッ……そうではない」
 スタンリーは胡座の足を組み直しながらゆるゆると首を振った。
「その気になれば逃げることもできた……だがそうしなかった……あの子は、奴からこの国を取り戻すために、5年間ずっと戦い続けておるんじゃ…」

 それに反応したのはナミだった。つい数日前まで自分が置かれていた状況を思い起こし、震える腕を抱きかかえる。
「イーヴィはダグラーに従うふりをして奴の計画のあらましを把握した。そして奴が大殺戮をおっ始めるのに時間と物資を要すると知ったイーヴィは、傭兵隊に入隊し、外海へ出る手段を得た。来たるべき時に備えて必要な物資を集め、戦う術を磨き上げ……その傍らで看守の任に就き、驚くべきスピードで最も高い地位まで上り詰めた……ゴホッ……わしらファーガスの支持者を助けるためにな……」
「『助ける』…?」
 ナミが聞き返した。スタンリーは深くゆっくりと頷いた。
「“5年後、3度目の遠征から帰った日”——わしらが聞かされているのはそれだけじゃ…」
「遠征から帰った日…」
「……ォホン…つまり……今日じゃ」
 スタンリーは皿の下に紛れ込んでいた小さな手紙を掲げてみせた。
 ナミ、ゾロ、ウソップ、サンジは僅かに目を見開く。
「イーヴィの計画の全貌を知っているのは、彼女の他にはただ1人…そう、ジムだけじゃ。そのジムがおぬしらを“国王軍”に処刑させるのではなく、敢えてこの日に“警察”に逮捕させ、ここフィリンシア監獄に連れてこられるよう計らった……あの青年は案外賢い子だ。考えなしにやったわけではないだろう…」
 遠くで重い扉が開く音がした。何人かの足音が徐々に近づいてくる。
「……もしかすると、ジムは…——」

「お話中失礼」

 鉄格子の向こうに、ザッと大勢が立ちはだかった。牢獄の看守と思しき連中と、そして黒マント姿の屈強な男集団——背中に書かれた数字は「2」。
 第2傭兵隊の傭兵達だ。
 麦わらの一味とスタンリーは口をつぐみ、檻の外へと静かに目を向けた。高級そうなタイトドレスの上に裾長の黒マントを羽織った、その女。いかめしい警杖をポンポンと掌に叩き付けるようにして弄んでいる。
「移動の時間よ、野郎共」
***
「おー!! クジラ女!! お前迎えに来てくれたのかー!!!
 鉄格子の中でルフィが能天気な声を上げた。相変わらずの様子に呆れ果てたのか、イーヴィは人差し指でこめかみを突つきながら「ハァ」と重々しい溜め息を洩らす。
「よしこっから出してくれんで一緒に海賊やろう!!
「……誰か…」イーヴィは額を押さえ俯いてルフィを指差した。「…『断る』って…こいつに分かる言葉で訳してやって」
「そんな言葉ルフィの辞書にねェよ」と、ゾロ。
「むしろ辞書すらねェよ」ウソップが言った。
「なんでだよ。楽しいぞ、海賊は
 ルフィはこの期に及んでまだ勧誘を続けようとする。イーヴィは彼を無視して、背後に従える看守に顎を使って何か合図した。
「海は冒険だらけだし、宴は楽しいし、サンジのメシはうめェし、何するのも自由だし」
「………」
 看守が懐から鍵束を出すのを、イーヴィは鋭い目で見守っていた。
「おめェなんかこの島でやることあんだろ?おれはそれが終わるまでここで待ってるからよだから、全部終わったら一緒に行こう
「えっ?ルフィがなんとなく事態把握してる
 ナミが頭を抱えて「そんなまさか」と叫んだ。対するイーヴィは冷静だ。看守が鍵束から金色の鍵を探し当てて錠前に差し込もうとしているのを、ぼんやり眺めている。
「スタンリー…あんたしゃべったのね……ま、別にいいけどさ」
 鍵穴に鍵が差し込まれた。そのまま解錠しようとした看守を遮って押しのけると、イーヴィは扉の鉄格子にガシャンと手をかけ寄りかかった。
「言っとくけど、牢屋で私を待ってたってムダよ、麦わら」
「あ、そ。じゃ廊下でいいや」
そういう意味じゃない!! あんたらを海軍に引き渡すっつってんのよ!!
 イーヴィが牙を剥いて怒鳴った。それからふと目を逸らす。
「それに…ここは城に近すぎる……」
「?」
 取り落としたような呟きに、麦わらの一味とスタンリーは揃って首を傾げた。
 イーヴィはその先を語ろうとはせず、先ほど遮った作業を自らの手で再開した。ところが、扉の鍵が最後まで回りきらないうちに、イーヴィは何かに気がついてハッと顔を上げた。
「——いない」
「あ?」
 一番扉に近い位置にいたゾロが眉をしかめた。軽く檻の中を見回すが、麦わらの一味は全員揃っているし、スタンリーもしかとここにいる。
「何言ってんだ。全員揃って——」
違う!!」サンジが切羽詰まった声を上げた。「イーヴィちゃん後ろだ!!
 それを聞いてようやくゾロも事態を把握した。『いない』とは牢屋の中の囚人のことではなく、イーヴィが連れてきた部下のことを指していたのだ。廊下の奥から微かな殺気——イーヴィはすぐさま身を翻したが、気づくのが遅すぎた。看守らの隙間スレスレのところを縫うようにして、一本の矢が飛んできた。
「うっ——」
 イーヴィは寸前で急所をかわしたが、矢は彼女の二の腕に深々と突き刺さった。
イーヴィ!!
イーヴィちゃん!!
「看守長ォ!!!
 ルフィ、サンジ、看守が口々に叫んだ。突然の奇襲攻撃に一同が騒然とする中、第2傭兵隊の連中は顔色一つ変えず、血を流すイーヴィを見下ろしていた。
「フェオドール…
 イーヴィはギリギリと歯をくいしばった。腕に刺さった矢を掴み、力任せに引き抜く。
「…だから言ったのに。イーヴィ隊長。自殺行為ですってこれ」
 飄々とした声が石造りの空間の中で不気味に反響する。イーヴィは血まみれの矢を石畳に叩き付けると、ブーツのヒールでぐしゃりと踏みつけた。
「第2傭兵隊…お前ら、裏切ったのね…
「裏切るだなんて人聞きの悪い…」
 廊下の陰から姿を現したその男——フェオドールは、手を弓にかけたままフフンと鼻で笑った。カツンカツンとゆっくり歩み寄ってくる。看守達は恐れをなして道を開け、イーヴィとフェオドールは直接向かい合う形になった。
「おれ達は傭兵らしく、与えられた任務を忠実にこなしてきただけだ。だろ?」
 フェオドールの問いかけに、黒マントの連中はニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて頷いた。
「おれ達はあんたが払ってくれた金額に見合うだけの働きはきちんとした。物資集め、戦闘の援護、情報収集……。それとおんなじように、ダグラー様からの仕事を請け負ってただけさ。女傑の監視、報告、拘束……ま、女傑よりか金払いがいいから、ちょーっと贔屓してやったってとこはあるが…」
「結局金かよ…汚ェ野郎だぜ」
 サンジが両手で鉄格子を掴み、怒りに任せてガシャガシャ揺さぶった。
「イーヴィちゃんここを開けろ!! そのクソ野郎三枚にオロしてやる!!
「つまり……“隊長ちゃん”…、あんたがおれ達に話してくれた計画は全部、ダグラー様に筒抜けだったってわけだ」
「なるほど、二重スパイか……」イーヴィが自嘲的に笑った。「私としたことが、全然気づかなかったわ…」
「ラビル・イーヴィ……貴様は軍事資金を横領して反逆行為を企て、更には権利を乱用し無断で罪人を脱獄させようとした……罪は重いぞ」
「バカなことをスタンリーたちのどこが罪人だってのよ…無実の罪で殺された王に敬礼しただけで、彼らが死罪になるなんておかしいと思わないの!?」
「それが正しいかどうかなんて、どうでもいいね」
 フェオドールは再び弓に矢をつがえた。イーヴィは警杖を構え、体勢を低くする。
「そう……そっちがそのつもりなら、——」
 一瞬、イーヴィの動きが止まった。
「っ!!
 そこからイーヴィの様子は一変した。数秒前までの気丈な態度はどこへやら、顔色は病人のように青白く、フラフラとおぼつかない足取りで、その場にまっすぐ立っていることすら難儀なようだった。
「おい、どうした」
 檻の中からゾロが声をかける。しかしイーヴィには返答する気力すらなかった。
「ようやく効いてきたか。なかなか症状がでないんで焦ったよ。さっきの矢、鏃に毒を塗っておいたんだ。なに、心配しなくても死にやしない。もっとも、しばらくはまともに立っていられないだろうけど」
「フェオドール…お前…!!
 イーヴィは地の底を這うような声で唸った。フェオドールは軽い調子で肩をすくめるだけだ。
 カラン——イーヴィの手から警杖が滑り落ちる。
「デフロット、アダム」
「はいよ、副隊長」
 黒マントの集団から体格のいい大男が2人進み出た。1人はフラフラするイーヴィを後ろから抱え上げ、もう1人は鍵を回して扉を開ける。
「しばらくそこで頭を冷やすんだな」
 スタンリーの足元に、ぐったりしたイーヴィがぶち込まれた。扉は再び閉ざされ、ガチャンと重い音と共に施錠されてしまう。「ちょっと!!」—— 一足遅れてナミが扉にかじりついたが、傭兵は彼女の鼻先で鍵を揺らしながら、ニヤリとほくそ笑んだ。
「じゃあな、賊ども」
「オラ、看守の野郎共、てめェもああなりたくなけりゃ、さっさと持ち場に戻るんだな
 傭兵達に追い立てられ、看守達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。廊下の向こうから扉の閉まる音が聞こえ、それっきり人の気配は消えた。
「あーあー。せっかくここから出られるチャンスだったのに」
 ゾロは言うほど気にしていなさそうだった。
そうよあんた扉のすぐ近くにいたのになんで何もしなかったのよ!!
 ナミはキッとゾロに噛みついた。
「うるせェな…別に急いでどうこうしなくたってどうにかなんだろ」
「なんないわよアイツら鍵持ってっちゃったじゃない!! どうすんのよもー!!
 ああああああ…と鮮やかなオレンジ色の髪を掻き回すナミのそばで、むくりとイーヴィが体を起こした。まだ顔色が悪く唇は紫色をしていたが、少なくともうずくまって苦悶していなければならないほどではなくなったらしい。
「大丈夫かい?」
 サンジが素早くイーヴィの前に跪き、スッと手を差し出した。
「ったく、あのクソマントども、レディになんてことを…許せねェな……」
 イーヴィはぼんやり据わった目でサンジの手の平を眺めていた。取るわけでも、払うわけでもなく、ただじっと見つめているだけのイーヴィに、サンジは「?」と首を傾げる。
「イーヴィちゃん?どうした?」
「………」
「まだ辛ェのか?…っと、そりゃ当たり前か。無理しないでそこに——」
「………んで……」
 ぽつり。
 イーヴィの唇から、今にも消え入ってしまいそうなほど弱々しい声が洩れた。
「え?」サンジが聞き返す。
「……なんで…?」今度はギリギリ聞き取れるくらいの声でイーヴィが呟いた。「……また…私の負けだ……」
「………」
 サンジは何も言わず、ゆっくりと手を下ろした。俯いて床に両手をつくイーヴィの肩が、わなわなと震えている。ゾロも、ナミも、ウソップも——そしてルフィもが、黙ってポニーテールのてっぺんを見つめていた。
どうしていつも勝てないの…!? なんで…!? ……結局…私はまたここに閉じ込められた…!!!
 堅い石畳の上で、イーヴィの白い指先にぎりぎりと力が込められた。スタンリーが「イーヴィ…」と声を詰まらせる。

「おい、イーヴィ。お前ちょっと下がってろ」

 ルフィが珍しくぶっきらぼうに言った。
 イーヴィは顔を上げ、ぽかんと彼を見上げた。ルフィは立ち上がっていた。草履を履いた右足で地を掃き、腰を落として斜めに構える。
 そして——。
「 ゴムゴムのォ〜っ 」
!!?
 ルフィの華奢な両腕が、ぎゅんっと真後ろに伸びた。目を白黒させるイーヴィをよそに、伸びた腕は勢いよく前方へと飛び出していく。
「 バズーカ!!! 」
 とんでもない爆音を響かせ、頑丈な鉄格子が吹っ飛んだ。

「〜〜〜!!!
 あまりの展開に言葉を失い、白目を剥くイーヴィ。

 もうもうと立ちこめる砂埃の向こうに、無惨にひしゃげた鉄格子が倒れ込んでいる。「バチン」——腕が元に戻ったルフィは、大きく膨らんだ鼻の穴からフンと荒い息を吹き出した。
「あんたね…」
 ナミはこめかみをツンツンやったかと思うと、次の瞬間、鉄の塊のような拳骨をルフィの頭にぶち込んだ。
いてェ!!
何なのよそのメチャクチャな力は!! それができるなら最初からやりなさいよ!!
「だって今思いついたんだもんよ」
 ぷっくり腫れ上がったたんこぶをさすりながら、しれっと返すルフィ。そして茫然と腰を抜かすイーヴィをちらりと見やると、またしてもとんでもないことを口走った。
「おれ、今からそのダグラーってやつぶっ飛ばしてくるからよ。お前、ここで待ってろ」
「「は!?」」
 ナミとウソップが揃って素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっとあんた何バカなこと言ってんのよ!!
「ルフィ落ち着けってお前ダグラーの恐ろしさ知らねェだろ!!?
「そ、そうよ…
 イーヴィも2人に続いて言った。
「正面切って挑んだって返り討ちにされるだけだわだから私はこうやって作戦を立ててきたのに——それでもあいつの方が一枚上手だった…これ以上あいつに関わっても死に急ぐだけよ!!
「じゃあお前は!!」ルフィが声を荒げた。「このまま負けて終わっていいのか!!
いいわけないでしょ!!! …っ!! ハァ…!!
 負けず劣らず声を張るイーヴィだが、毒のせいか息が辛そうだ。
「あいつはこれまでにかき集めた兵力を使って、この国の人たちを虐殺するつもりなのよ…ハァ…!! そんなの……放っておけるわけない…!!
「………」
「大丈夫よまだ手だてはある……傭兵隊に教えてない計画が……」
 イーヴィはぺらぺらと喋り出した。声が不自然に高い。動揺が隠しきれていなかった。
「傭兵隊が知らないなら、ダグラーの耳にも届いてないはず…!! ここはいっそダグラーを倒すのは諦めて……奴の攻撃から国を守ることだけに専念するわ。今、ジムが町で準備をしてるはずだから…あと一時間もすれば始められる……もうそれしか打つ手は——」
うるせェ!!!
 ルフィの理不尽な怒号にイーヴィは縮み上がった。
計画とか何とかおれが知るかお前そんなんで本当に守れると思ってるのかよ!!
「——っ!!
 イーヴィは息を呑んだ。悔しいが、今回ばかりはルフィが正しいと、檻の中の全員が思った。ここでイーヴィが国民への攻撃を止めたとしても、首謀者が野放しになっていては何の解決にもならない。何も終わらないのだ。
お前は!! ——ダグラーをぶっ飛ばすためにずっと頑張ってきたんだろ!!! なのにこんなところで諦めんのか!!!
「お…おお……クソ猿がもっともなことを…」
 サンジは信じられないという口ぶりで呟いた。
「アイツ時々思い出したように的を射たこと言いやがる」
 ゾロが言った。
!! だって!! 勝てなかったんだもん!!
 イーヴィは叫んだ。一糸まとわぬ、感情がむき出しの声だった。
「ダグラーは強すぎるのよ私が必死になって食らいついても、まともに相手もしてもらえなかった!!
なら!! おれがぶっ飛ばしてやる!!
「どうして……そんな…」
 イーヴィは困惑して、ルフィの奮然とした顔を見上げた。
「あんたみたいなガキ…殺されるかもしれないのに……」
「ダグラーがどんだけ強くたって関係ねェ。おれがぶっ飛ばすって言ったらぶっ飛ばすんだお前、勝ちたいんだろ!!?
 そして、ルフィは一息置いて、
おれはお前が負けるのは嫌だ!!
!!!
おれ達に言え——イーヴィ!!
 イーヴィは唇を噛んだ。
 計画がバレていたことを知り、武力を取り上げられ、何もかもおしまいだと思った。ただでさえ心細くて不安でいっぱいだった頭の中が、一気に真っ黒いもので塗りつぶされてしまったような感覚だった。何も見えないくらいの、一点の明かりもない真っ暗闇の中に突き落とされたような気分だった。
 そこに、ルフィは切り込んできてくれた。ルフィの言葉は何一つ根拠がなかったが、その時、イーヴィは、目の前で仁王立ちしていたルフィがどうしてだかとても頼もしく見えた。
 イーヴィは再び俯いた。しかし、もう震えてはいなかった。
「城に入って……正面階段を使って6階に行って……。まっすぐ廊下を渡って突き当たりの大きな扉…その向こうにダグラーがいるはずだから……」
「………」
あの野郎を…!! 城の外までぶっ飛ばして!!!
 ルフィが麦わら帽子を押さえた。その両隣にゾロとサンジが並び出る。
「さて……一仕事するか…」
「麗しきレディのご所望のままに」
「め…命令されちまったんじゃあ仕方ねェよなァ〜
 ウソップが3人の後ろに立った。腰が引け、足は輪郭がブレて見えるほど激しく震えていたが、腹は決まっているようだ。
「そうね……騒ぎに乗じてお宝頂戴するとしますか
 ナミにいたっては戦闘に加わる気すらない。それでも、麦わらの一味5人全員が、イーヴィのために立ち向かうと言ってくれた。イーヴィをこのまま負け犬にはしないと手を差し伸べてくれた。
「ありがとう…!!」イーヴィは胸をつまらせた。「……お願い…!!!

「任せろ
 ルフィがニカッと笑った。白い歯を見せて、頼もしく。

「行くぞ野郎共!!
「「「「 おう!! 」」」」