Judge, Jury, Executioner

生かすか殺すか

 ダリルはイライラと倉庫の中を行き来していた。外は黄金の光に満ちていたが、ここは薄暗く、隙間だらけの扉の細長い影が、檻のように『クソ野郎』の体にかかっている。ランダルは鉄臭い喘息を漏らしながら、後ろ手に手錠をかけられて椅子に座り、醜く膨れた瘤の下から朦朧とした目でダリルを見上げた。それを合図としたかのように、ダリルはパンパンに腫れ上がった顔を力一杯殴りつけ、ランダルを椅子ごと床に倒した。

 ランダルはすすり泣き、すがりつくような目を向けた。ダリルはそれがくじけるまで何度も拳を振るった。

「……言ったろ」

 ランダルが口の中の血を吐き捨てて言った。「嘘つくな!」──ダリルはランダルの胸倉を両手で掴み、乱暴に壁に叩きつけた。

「あいつらのことはほとんど知らない!偶然出会ったんだ」
「仲間は何人だ」

 しかし、ランダルが歯を食いしばったきり答える気配を見せないので、ダリルは腰に下げた革製のシースから、これ見よがしに鋭いバックナイフを引き抜いた。

「ああ……う、う、う、嘘だろ。やめてくれよ、なあ」

 ダリルは構わずナイフを傷ついた足スレスレの床に突き立てた。

「何人だ!」
「あーっ!あーっ、三十!三十人!男が三十人!」
「場所は」
「あー……」

 脛に貼ってあったガーゼを力任せに引き剥がすと、ランダルは鋭い悲鳴を上げて痛がった。ダリルは知らんぷりをして、傷口にナイフを突き立てた。

「分からない!本当だ!一晩ごとに移動してた!」
「偵察か?」ナイフを立てたまま、ランダルに詰め寄る。「定住しようって企んでたのか?」
「知らないって!俺には教えてもらえなかった!」
「かさぶたを剥いだことはあるか?」

 ナイフに力を込めると、ランダルは震え上がって情けない声を上げた。

「よせって、なあ!協力するから!」
「最初はゆっくりだ。それから力尽くで剥ぎ取ってやる」
「分かった!分かった……ぶ、武器を持ってる。機関銃とか、拳銃とか……だ、だ、だけど俺は何もしてない!」

 ランダルの脅えた目はダリルの手元に釘付けだった。

「お前の仲間は俺の仲間に向かって撃った、この農場を乗っ取ろうとした!それでもお前はドライブしてただけと?無実だと言い張るのか?」
「そうだ!」

 ランダルが激しく体を揺さぶって答えた。

「……あいつらは俺をグループに入れてくれた。男だけじゃない、皆だ」

 ダリルは静かにナイフを離し、立ち上がって、捕虜が辿々しく話すのを聞いた。

「男と女と、子供もいた──あんたらと同じだ。奴らと一緒にいた方がマシだと思ったんだ、分かるだろ?だけど──」ランダルが唾を飲んだ。「──物資調達に行って……男だけで。ある夜、小さなキャンプ場を見つけた。男が一人と、娘が二人……十代だよ。ほら……若くて、すごくかわいかった……」

 ランダルはそこで言葉を切って、腫れて歪んだ目を意味深に持ち上げた。ダリルは急激に脳が冷えていくのを感じた。

「父親は見てなきゃならなかった……あいつらは、その……あいつらは殺さなかったんだ!あ、あいつらは父親に見させたんだ、娘たちを……あいつらは、父親の目の前で……」

 吐き気がした。頭の中で激しい警鐘が鳴っていた。

「で、でも俺は触れてない!本当だよ。誓って──」

 何も聞きたくなかった。聞くに値しないとさえ思えた。ダリルは一分の容赦もなく、満身の力でランダルの急所を蹴りつけた。激痛に泣き叫び、力なく命乞いをする姿を見ても、もはや穢らわしいとしか感じなかった。

「頼む……信じてくれよ、なあ……俺は違う……奴らとは違う……頼む、頼む俺を信じてくれ──」

 最後まで聞き終わらないうちに、ダリルは再び蹴りを入れていた。

***

 朝になっても、り以子たちは不安から解放されずにいた。ローリやアンドレアがリックたちに今後のことを訊ねたが、曖昧にはぐらかすばかりでよく分からない。一体何がどうなっているのだろう。パッとしない曇天も、冷え込む空気も、何もかもが気を滅入らせた。

 ランダルは相変わらず倉庫に拘留してあった。誰も近づくなという御達しが下され、嫌な予感はしつつも言われた通りに従う他なかった。

「あいつ、ここに置くの?」
「すぐに分かるさ」

 不安げなグレンに、リックは皆の後方を顎でしゃくって見せた。

 倉庫の方から、ダリルが大股で歩いてくるところだった。背負ったクロスボウが歩くたびにガシャガシャ音を立てている。そのショルダーベルトを握った手の節に、酷く鬱血した痕が出来ているのに気がついた。

「ガキのバックにはギャングがいる。男が三十人」
 ダリルが皆の前で足を止めて言った。
「重火器を持ってるが、友達作りに興味はなさそうだ。奴らがここに攻めてきたら、男は死ぬ。で、女は──女は、死にたくなるような目に」

 ダリルは珍しく言葉を濁した。

「何したの?」

 キャロルが傷ついた手の甲を見つめて訊ねた。ダリルはこの時初めて怪我に気づいたという様子で、そそくさと手を隠した。

「──おしゃべりさ」

 倉庫で何が行われていたかは明白だ。だけど、それをダリルがやったなんて──しかも、り以子は相手の顔も知っている。急激に寒気を感じ、ブレザーの袖の上から腕を摩った。

「誰もあの男には近づくな」

 リックから再びの指示が出ると、ローリは心配そうな顔をした。

「リック、どうする気?」
「俺たちに選択肢はない。奴は脅威だ──脅威は排除すべきだ」
「……殺すのか?」

 り以子はハッとしてデールを見上げた。

「決定だ。今日やる」

 リックは一人一人を見回しながら、誰とも目を合わせずにしていたようだった。そして、誰かが意を唱える前に、一方的に話を打ち切って野営地を出て行ってしまった。

 今日『やる』──事務的な言い回しがむしろ生々しく、恐ろしかった。り以子は青ざめた顔で大人たちを見たが、皆あまり深く考えたくないというように、目を伏せていつも通りの仕事に取り掛かろうとしていた。その中で、デールだけが真っ先にリックを追った。

 雷鳴が轟いている。何かとてつもなく嫌なことが起こりそうな空だった。